だって、さ。 白銀に染まった世界の中で、金茶の髪がさらりとゆれて。 存在そのものが光を含んでいるようにも見えて、ひどく敬虔な気持ちになったんだ。 天使がこんなならいい。 そう思ったのを覚えている。 実際には天使というより、どちらかといえば悪魔だとか、そっちの方に近かったんだけれど。 「…陛下? どうかなさったんですか?」 「ん…ちょっと昔のこと思い出してた」 初めて会ったとき思っていたこと。今のこいつに言ったらどうするだろうな。 ゆるく流れる金茶の髪を、見るともなしに見ながらふと思う。 多分呆れた顔をするんだろう。 曖昧に笑うだけかもしれない。 だけど、実はとうなずいて飛んで行ってしまうのが怖いから、一度も言ったことはないのだ。 天使がこんなならいい。 本当は今でもそう思っている。 だけど、人間であってほしい。 今ではそう願っている。 この息苦しい世界の中で、喘ぎながらでも一緒に生きていけるように。 ばかげているかもしれないけれど、これ以上ないくらい真摯に。真剣に。 幸いにもその背に羽根を見たことは、まだ、ない。 20070522 |